【憧れの試乗!】ポルシェ「911」はやっぱり世界のクルマ好きを狂わせる“魔車”だった
掲載 更新 carview! 文:西村直人(NAC)/写真:ポルシェジャパン、編集部、西村直人(NAC) 12
掲載 更新 carview! 文:西村直人(NAC)/写真:ポルシェジャパン、編集部、西村直人(NAC) 12
スポーツカーのなかで、多くのクルマ好きが憧れる一台がポルシェ911。筆者もその一人だが、ベーシックモデルの「カレラ」ですら1503万円~(執筆時)というから未だに手が出ない。この先、調子づいて手にしたとしてもタイヤやブレーキ、オイルなど消耗品の交換をケチるようなら、自分にとっては時期尚早。「スポーツカーはスマートに乗りこなすべき」。これが持論だ。
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第8世代となった911シリーズ(タイプ992)は2019年7月に誕生。水平対向6気筒3.0Lツインターボは385PS/450N・mを発揮する。
現時点、国内仕様では8速のデュアルクラッチトランスミッションである「PDK(ポルシェ・ドッペルクップルング)」との組み合わせにより、100km/hまでの加速タイムは4.2秒(スポーツクロノパッケージ装着車は4.0秒)、最高速度は293km/hと公表。なお、「カレラ T」は7速マニュアルトランスミッション(MT)との組み合わせだ。
最大トルク値の450N・mを1900~5000回転の幅広い領域で生み出していることから、リヤエンジン・リヤ駆動であるRR方式の「後輪で曲がる」感覚をつかみやすい。「911はアクセル操作ひとつで向き変えできる」といわれるゆえんだ。
以前、雪上でパイロンスラローム走行をする機会があったが、バイクのスラローム走行のようにアクセル操作を同調させると、おもしろいように向きが変わりスムースに走り抜けることができた。ここは、食わず嫌いもハマる強烈なチャームポイントだ。
ボリュームあるボディラインでも全幅は1850mm。ギュッと塊感があるから運転席からの見切りも想像以上に良い。前19インチ/後20インチの大径タイヤを履くが、最小回転半径は5.6mと狭い道での取り回しもスムースに行える。
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そのカレラをベースにエンジン性能やシャーシ&ブレーキ性能を向上させたのが「カレラ GTS」だ。水平対向6気筒3.0Lツインターボは480PS/570N・mへと出力/トルクとも大幅に向上させながら、最大トルクの発生回転領域は2300~5000回転と、いわゆる台形トルクカーブを死守しシフトアップ直後の加速力低下を抑制した。
筆者が試乗したカレラ GTSは7速MTモデルだ。1速を低めに、7速を高め(80km/hで1250回転)に設定する代わりに、2~6速のギヤ比をクロスさせて途切れのない加速力が得られるよう造り込んだ。車両重量は1545kg。
市街地ではバネレート/ダンパー減衰力ともに高められたサスペンション特性が際立つ。試乗モデルにはオプション品としてカーボン素材で構成された「フルバケットシート」(89万1000円)が装着されていた。ちなみに試乗モデルのオプション品総額は637万8000円(広報部作成のスペックシートより)。車両価格である1942万円(執筆時)を加えると2579万8000円と高額に……。
さておき、乗り味だ。ハードなサスにカーボンシートとくれば誰もがバキバキの乗り味を想像するだろうが、実際はそれと真逆。カーボン独特の、芯があるけど硬すぎない減衰特性はスッと身体に馴染みやすいからだ。路面が少々荒れていても視線の上下動が少ないから疲れない。ここも美点。
筆者は以前、カーボンシートを標準装備していたスバル インプレッサ「S203」を所有していたこともあり、ボディ剛性こそ大きく異なるもののカレラ GTSの乗り味はどこか懐かしかった。
後輪を最大で2度操舵する「リアアクスルステアリング」(こちらもオプション品で37万5000円)の効果は市街地でも感じられ、カーブ初期にじわっとステアリングを切ったときに、同じくじわっとアクセルペダルを踏み足すと回頭性能が明確に高まるから運転のリズムがよりつかみやすくなる。
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高速道路になると一体感はさらに向上。一般的に60km/hを過ぎたあたりから空力効果は現れるが、CdA 0.642 m2(平方メートル)を誇示するカレラ GTSの場合、80km/hを超えたあたりからそれが顕著になる。車体がグッと下に押しつけられるさまを、シートを通じた振動周期変化や、落ち着きが増したステアリングの操舵特性から感じ取れた。
渋滞路を含む一般道路や高速道路での試乗だったが、その性能は圧巻だった。最新のカレラ GTSを前にして今さら的な話だが、じつはゆっくり走らせている時でさえ楽しいスポーツカーは数少ない。国産車では、ちょっと贔屓目に言って筆者の愛車でもあったマツダ「ND型ロードスター」くらいか。
ステアリングやシフトの操作、アクセル、ブレーキ、クラッチの各ペダルを踏んだり、戻したりした際の感覚がすべて一定の範囲にまとまっている(≒連携している)から、極端なことをいえば発進、停止を繰り返す渋滞路でもニヤけてしまう。
アイドリング回転数からスッとミートできるクラッチ設定はじつに見事。最新ポルシェらしくペダル踏力は軽めだ。1速でのノンスナッチ回転数は600回転程度と、渋滞路などでの軽いブレーキ操作を受けつけるほど実用的だ。ともかく高い精度を誇る工業製品を意のままに操る達成感は、本当に気持ちが良かった。
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次いで試乗したのはシリーズのトップモデル「911 GT3」だ。同じスポーツ路線でも「ゆっくり走らせても楽しい」のがカレラ GTS だとすれば、「速く走らせてこそ楽しい」のが911 GT3である。
水平対向6気筒エンジンは4.0Lへと排気量を拡大し、ツインターボを取り外した自然吸気型へと構造変更。結果、510PS/470N・mを発揮する。同時にボア×ストローク比をカレラの83.9%から79.9%へさらにショートストローク化し、最高許容回転数は9000回転へとカレラから1500回転も高められた。試乗モデルは専用の7速PDKで、大胆な軽量化により車両重量は1435kgに抑えられた。
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乗ってすぐに他の911とは異なる印象を抱く。9000回転に向かって一気に高まる燃焼音や排気音、ギヤノイズに各種の振動が全力でドライバーへと向かってくるからだ。「もっとアクセルペダルを踏み込むと楽しいぞ!」と語りかけてくる。100km/hまでの加速タイムは3.4秒、最高速度は318km/h。
専用サスに高剛性ボディ、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製のフロントリッド、軽量ウインドガラス、専用ブレーキディスクと軽合金製鍛造ホイール……。これらの相乗効果で得られる鋭い乗り味は市街地走行でも十分に伝わってくるが、すべてが過剰であることも確か。GT3の限界性能はサーキットでこそ発揮される。
ポルシェには、限界性能の片鱗を安全に楽しく体験できる施設がある。2021年10月にオープンした「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」(千葉県木更津市)がそれだ。
911 GT3を筆頭に911 ターボ、718ケイマン/ボクスター、SUVのマカン、さらにはBEV(電気自動車)のタイカンに至るまで、インストラクター同乗のもと専用コースで乗り比べができる。詳細は筆者のYouTubeチャンネル「西村直人の乗り物見聞録」(https://www.youtube.com/watch?v=PvRk38wTDfM)でも紹介しているのでご覧頂きたい。
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憧れを抱いてきた911だが、ゆっくり走らせても楽しく、気分が高揚するスポーツモデルであることがよくわかった。フラット6が生み出す鋭い加速力や、車体を沈み込ませながら猛烈に減速するブレーキ性能、優れた回頭性能はスペックの上からだけでも魅力的だ。
一方で、それこそ性能の10%程度しか発揮させなくとも、その状況なりに100%で身体に訴えかけてくる。限界走行で感じるベクトルとは明らかに異なるが、感じられる喜びのレベルは同じだ。いつでも、どんな状況でも対話が楽しめる。だからこそ911は世界中のクルマ好きを虜にするのだろう。
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